厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 貞子さまの気性を熟知している私は、その決意が揺るがないことは察していた。


 だが説得を繰り返した。


 貞子さまがこの地を去ってしまえば。


 御屋形様に物申せる方が本当にいなくなってしまう。


 誰も御屋形様をお止めできなくなってしまう……。


 「嫡男・義尊が申し分なき大内家後継者であれば、まだ私も正室として大内家の行く末について考えたくもあるが」


 貞子さまは周囲を確認し、言葉を続ける。


 「誰もが出生に疑問を持っているような子供に、大内家の今後を委ねるなんて世も末」


 誰しもがおかしいと思っている。


 だが御屋形様を止めることができる者は、誰もいない。


 そうこうするうちに大内家当主は義尊さまに定められてしまい、幕府の承認をも得てしまった。


 「どこの馬の骨とも知れぬような父を持つ子に大内家の家督を譲るなど、先祖代々に合わす顔もない。このような天の理に背いたことを繰り返していては、いずれ天罰が下る」


 そして貞子さまは、結論を口にする。


 「このままでは……大内家は滅びる」
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