厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「貞子さま!」


 さすがの私も、顔が青ざめるのを感じる。


 いくら貞子さまとはいえ、大内家を否定するような発言。


 おさいの方に味方する者たちに聞かれては、貞子さまのお立場が……。


 「程なくこの家を去る身の上、今さら立場も何もない」


 苦笑いを浮かべられ、貞子さまは庭園のほうへと歩み寄られる。


 「京よりこの地に嫁いできた当時……。京が恋しくて山口の町に馴染めずにいた私に御屋形様は、この山口を京の都以上の町に発展させると誓ってくれたのに」


 当時を振り返られる。


 「確かに町並みは、京の都と遜色ないほどにきらびやかなものになった。だがそれは見た目だけ。京の千年近い伝統には遠く及ばぬ」


 外面は体裁を整えても、内面がなかなか伴わない。


 それを補うために御屋形様は、京からの亡命貴族たちをさらに受け入れ続けた。


 彼らは都の風を西の果ての山口まで運んではくれるものの……、京から来たことを鼻にかけ、地元出身者を見下している。


 横暴な振る舞いが目立ち、御屋形様の庇護を笠に着て贅沢三昧の亡命公家たちに対し、山口の者たちの不満も日に日に高まっている。
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