厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「今のままの状態が続けば、いずれ家臣たちの不満は爆発する。御屋形様に対する怒りはもはや、抑え切れなくなるだろう」


 ……その時私は察した。


 貞子さまはやがて、この周防の国に異変が起こると予想されている。


 押さえ切れない御屋形様への不満は、何らかの形で……。


 御屋形様に反旗を翻す者たちは、貞子さまを旗印に掲げて大義名分とする可能性がある。


 それを避けるために貞子さまは、一足お先にこの地を離れてしまわれるのか……?


 「このままだとこの手で、御屋形様を殺めてしまいそうな自分が怖い」


 「ですが貞子さまが京に去ってしまわれては、ますます秩序が失われて……」


 「……もしも私を、御屋形様への謀反の旗印にする者が本当に現れたら。お前は命に代えても私を討たねばならなくなる。……お前に私が討てるか?」


 止めを刺すかのように、あまりに突拍子もないことを申される。


 「まさかそのようなこと、起こるはずが」


 「ないと断言できるか?」


 「……」


 「ただでさえ今の周防には、私の居場所がない。そしてこれ以上ここに留まれば、さらに面倒なことに巻き込まれかねない」
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