厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
***


 貞子さまが去られて、初めての春が訪れた。


 この山口の繁栄の象徴ともいえる、瑠璃光寺の五重塔は春の陽射しに輝きを増し。


 桜の花びらが、西の京とも称えられる山口の町を彩る。


 日に日に春の装いが華やかなものとなるが、私は一層の孤独に苛まれていた。


 今まで陰から私を守ってくださっていた貞子さまが去られた影響は、思った以上に大きい。


 庇護者を失った私は、大内家での発言力をさらに低下させてしまった。


 御屋形様のご寵愛は、以前として相良武任に向けられており。


 嫡男・義尊(よしたか)様の母となったおさいの方の勢いは、とどまるところを知らない。


 貞子さまが去られた後、正室の座を手にしたのみならず。


 数多くの取り巻きを集め、権勢をほしいままにしている。


 その派閥の中心をなすのが、おさいの方の実父である小槻伊治(おつき これはる)。


 京から流れてきた亡命公家は、大内家当主の正室となった娘の七光りで、大内家内でやりたい放題。


 古くからの重臣たちの間ではひんしゅくを買っているが、おさいの方の実父というよりも、次期当主の外祖父(がいそふ;母方の祖父)という肩書の前に物申せる者は少ない。
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