厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 私はかねてから、おさいの方を無視していた。


 貞子さまの侍女だったにもかかわらず、並々ならぬ野心家で、隙を見て御屋形様の寵愛を盗み取ったそのこざかしさが気に食わない。


 次期当主の母に対する敬愛の念など、決して持つことができない。


 私の嫌悪感は当然、おさいの方にも伝わり……。


 おさいの方は私を見下している。


 一家臣の分際で御屋形様に物申すなど生意気だと、繰り返し御屋形様に吹き込んでいる。


 当然私がかつて、御屋形様の寵童だったことも知っている。


 代々大内家当主に側近として仕えた陶家の当主として、今の私の地位は至極当然。


 だがそんな背景よりも、寵童であったという過去の事実が独り歩きを始め。


 私が現在の地位を得たのは、御屋形様との昔の関係によるものであり。


 御屋形様に体を売り、その寵愛が元で出世したのだと決めつけて、私を蔑んだ目で見ている。


 おさいの方の取り巻きたちも同様だ。


 何かといえば「寵童上がりの分際で」と私を見下している。


 嘲笑している。
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