厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「今は我慢です、陶どの」


 いつものことながら、八歳年上の同僚・冷泉隆豊(れいぜい たかとよ)どのが私を励ました。


 「いつか陶どのの力が必要になる日が、必ず訪れます。その時まで短気を起こしてはいけません」


 「……そのような日が訪れることが、本当にあるのでしょうか」


 私は次第に投げやりになりつつあった。


 私の力が必要になる日?


 それは戦がある時に他ならない。


 今後戦が起こるとしたら、それは尼子氏との戦くらいしか思い浮かばない。


 だがその尼子は、近年は領国内の基盤強化に努めている様子で、大内家との全面戦争は当面考えていないようだ。


 他の周辺諸国にも、大内家に攻め込んで来ようと企む者の存在は確認できず……。


 当分戦は起こらないと予想される。


 私の力を発揮できる場など、もうどこにもないような気がしていた。


 「戦だけではありません。陶どのは御屋形様にとって、なくてはならない存在。御屋形様も改めて気付かれる日がきっと来ます」


 冷泉どのは繰り返すが。


 私にはそんな未来が、ぼやけて見えない。
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