厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「お前が相良を毛嫌いする理由は分かっておる」


 御屋形様は自信たっぷりにそう申された。


 いや、御屋形様は分かってらっしゃらない。


 私の相良に対する嫌悪を、個人的な理由にすぎぬと思い込んでおられる。


 つまり……御屋形様の寵愛を盗んだ相良を、私が嫉妬しているのだと。


 その嫉妬が原因で、私が相良を忌み嫌っているのだと。


 「だがここは私に免じて、相良と仲良くしてはくれぬか」


 甘い瞳が私を飲みこもうとする。


 この微笑みの前では、私は牙を奪われた獣となり下がることを、御屋形様は重々承知の上で。


 私をたやすく丸め込んでしまおうとなさる。


 「分かっておるであろう? 五郎」


 かつて私を愛された時の名前で私を呼び。


 もはや抵抗できず硬直したままの私のうなじをそっと撫でる。


 「……いい子だ」


 私がおとなしくなったのを確認し、御屋形様はそっと微笑まれた。
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