厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「それは、どのような……」


 相良の。


 娘を。


 娶る……?


 単語の一つ一つは認識できても、混乱のあまり御屋形様の言われたことが理解できない。


 めまいすら覚える。


 「お前と相良がいがみ合っていては、大内の家も一つにまとまらない。いつまでもそんなことを続けていては、この戦国乱世、群雄割拠の波に易々と飲み込まれてしまう」


 それは私だって重々承知なのに。


 「そこで私の顔を立てる形で、これからは相良と仲良く、大内の家を盛り立ててはくれまいか」


 「元より私の使命は、大内家そして御屋形様のためにこの身を捧げることにございますが」


 「ならば分かってくれるな。大内家のためにお前は今後相良と力を合わせ、協力態勢を取る。その証として相良の娘を、」


 「お待ちください。それとこれとは話が別でございます」


 私は御屋形様の言葉を妨げた。


 「一度会う機会を設けよう。相良の娘は相良に似て美貌の持ち主で、この山口一番の美女として名高い」


 「そういう問題ではありません」


 思わず御屋形様から顔を背けた。


 「大内家を代々お支えしてきた陶家の当主であるこの私が、なぜ相良ごときの娘を妻に迎えねばならぬのですか……右筆(ゆうひつ;書記)上がりの家柄にすぎぬ」
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