厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
***


 私は大内館近くに、屋敷を構えていた。


 本拠地は富田若山城(とんだわかやまじょう;現在の山口県周南市)であるが、馬でも五時間余りかかる距離のため、政務などが立て込んでいる際は山口の別宅にて寝泊まりして大内館に通う。


 昔その、馬で五時間の道のりを、御屋形様が通ってこられたことがあった。


 私に会いたいと思うあまり。


 真夜中の野山を、馬で駆け抜けられて……。


 にもかかわらず私は体調を崩していて薬を服用していたため、御屋形様のご来訪に気付かず、深い眠りに落ちていたという不始末。


 目が覚めてから途方に暮れたのを思い出す。


 まるで昨日のことのように、はっきりと……。


 御屋形様はもはやあのような情熱で、私を追い求めてくださることがなくなって久しい。


 最後に愛された時の記憶すら、日々の暮らしの中で埋もれていきそうなのに。


 時折、一人の夜などは突如として、思い出が鮮やかに蘇る。


 そして私を焦がすように苦しめる……。
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