厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「失礼いたします……」


 寝所にて夜更けに一人、この身を苛める愛の記憶を持て余していた時だった。


 突然ふすまの向こうから聞こえてきた女の声に、一気に現実へと引き戻された。


 「いかがした。このような時間に」


 屋敷に仕える侍女かと思ったのだが。


 ふすまが開いて覗いた顔は、見覚えのあるものではない。


 「何の用だ」


 よもや、くせ者……?


 枕元に常に置いてある刀に、気取られぬよう腕を伸ばす。


 まさか相良の手の者?


 私を殺しに来たとして、このように堂々と一声かけてから部屋に入ってくるとも思えないが。


 「お前は誰だ」


 見知らぬ女は三つ指をついたまま、畳の上で正座をして頭を下げている。


 「何か申したらどうだ。お前は何者で、何の用があってこんな夜中にこの陶隆房の元へ、」


 「あの、」


 「何だ」


 「わたくし、相良武任の娘にございます。……空蝉(うつせみ)とお呼びください」


 「相良の……?」


 相良の娘……。


 御屋形様が私に縁組を勧めてきた、相良の娘本人!?
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