厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
***


 私が眠りにつこうという時刻でも、御屋形様の夜はまだ始まったばかり。


 大内館は煌々とした明かりに覆われていた。


 今宵も御屋形様は取り巻きの公家どもと共に、酒宴に興じておられた。


 「何事や」


 寝間着に羽織を被っただけの格好で、ものすごい足音を立てながら大内館の廊下を進み、


 「どうした隆房。騒々しい」


 突然宴席に乱入した私を目にして、御屋形様は驚いて顔をお上げになる。


 「私の寝所に忍び込んだ賊を、捕らえて連れてまいりました」


 「賊……」


 御屋形様は悟られたようだ。


 私がなぜここに押し入ったかを。


 そして御屋形様の目の前に放り出されたのは……寝間着姿のままの相良の娘。


 「これは……」


 その有様を目にした周囲の公家たちは、驚いて顔を見合わせていた。


 最もあっけに取られていたのは他でもない、父親の相良。


 美貌で名高い愛娘が、この私に御屋形様の面前まで連れてこられた挙句、衆目に晒されて……。
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