厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「陶どの、これはあまりの仕打ちではありませぬか。まだ年若い我が娘を」


 相良は私に苦言を呈する。


 「その年端のゆかぬ娘を、我が寝所に忍び込ませたのはどこのどいつだ」


 「だからといって、こんな暴挙が許されるはずもありません!」


 御屋形様の面前で、相良と押し問答を繰り返していた時だった。


 「つまりは、何もなかったということやな」


 「まさか何もないとは。おかげで外してしもた」


 公家たちのつぶやいた言葉が気になった。


 「……どういうことだ」


 「いえ、別に」


 公家どもは慌てて目を逸らし、知らぬふりを決め込もうとしたが、


 「正直に申さねば、どうなるか分かっておろうな」


 手にした刀をちらつかせたところ、震えあがって白状した。


 「……賭けていた?」


 私は、賭けの対象にされていたのだ。


 美貌で知られる相良の娘に、夜伽を迫られ。


 果たして何もせずにいられるかどうか……。


 公家どもは面白おかしく、私が相良の娘に手を出すかどうかを賭けの対象にしていた。
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