厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「陶どの……!」


 周りにいた者たちは皆、私が御屋形様に斬りかかったと思い込んだことだろう。


 それでも腰抜けの公家どもは、身動き一つできずこちらを呆然と見守っているのみ。


 「隆房……?」


 御屋形様は私から逃れようとはしなかった。


 ……もしかしたら、分かり切っていただけなのかもしれない。


 私が御屋形様を殺めることなど、決してできないことを……。


 その時、私の矛先は……とっさに相良へと向けられた。


 このままではあとわずかで、刃先は相良の元へ……。


 「おやめください!」


 止めに入ったのは冷泉どの。


 必死の形相で私に抱きつき、腕を動かせないようにする。


 「なりませぬ! 御屋形様のおられるこの館で、そのような物騒なものを振り回しては」


 ……このまま相良を斬っては、私の罪は免れない。


 冷泉どのは最悪の事態を押し止めてくれた。


 だがすでに、御屋形様の面前で刃傷沙汰を起こすという不祥事をやらかしてしまった私は、このままでは済まされないだろう。
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