厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……主君がその家を治めていく能力がない、相応しくないと判断された場合。


 家臣たちが協議の上で主君に退任してもらい、一族の中から新たな主君を擁立して家を守っていくのは、昔からの武家のならわしだ。


 これを主君押込(しゅくんおしこめ)とも呼ぶらしい。


 家臣の分際で主君に強要、脅迫を行なってその座から追い出すなんて大それたことのように見えるが、家を守るためにはそれは仕方のないことなのだ。


 ……先祖代々受け継がれてきたこの大内家を守るためには、心を鬼にせねばならぬ時も。


 覚悟はできていたはずなのに、次の一文に筆を進めた時、私の手は震えた。


 「他の重臣たちとも協議して、御屋形様には隠居していただいたほうがいいのではないかと考えている。その後は嫡男義尊(よしたか)さまに大内家の家督を継いでいただく方向で」


 そうはっきり書き記した。
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