厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……そのような文章を元就宛に送っておきながら。


 当時の私はまだ、自分が記した文章のような未来が実現するとは半信半疑だった。


 この手紙は密書ではない。


 御屋形様への遠回しな警告なのだ。


 今のままでは私は、手紙にあるような大それた行動を起こしかねない。


 止めるならば今しかない、と。


 御屋形様に情報が伝わるように、私が元就へ書状をしたためた話を、安芸(あき;広島県)の国の諸豪族たちにも大々的に言いふらさせた。


 ここまで派手に広めれば、どこかからきっと御屋形様に近い者の耳にも入り、御屋形様へ報告がなされるだろうと計算していた。


 間もなく想像通りにこの手紙が公になると、御屋形様は予定されていた祭事への出席を直ちに中止なされ。


 大内館を兵で固められ、完全武装体制を取られた。


 私が現状に不満を抱いているのは想定内として、話が他家にまで広がっていたことを知り、御屋形様は慌てて騒動の火消しに走ったようだ。


 そして翌日、私は御屋形様からの呼び出しを受けた。
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