厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋形様、あの書状を陶どのが本気で書き送ったとしたならば、ゆゆしき事態にございます」


 私との面会の場と向かう途中、御屋形様は冷泉隆豊(れいぜい たかとよ)どのと相談しておられた。


 「隆房は……、悪ふざけが過ぎる」


 御屋形様は全く信じていない様子で苦笑されるのみ。


 「笑い事ではございません」


 御屋形様の後を追い、冷泉どのは続ける。
 

 「もしも陶どのが本当に御屋形様に対して陰謀を張り巡らしているとしたら、いっそのこと私がこの手で」


 ……冷泉どのは私が大内館に仕えるようになった当時から、親しく接してくれた恩義がある。


 御屋形様からのご寵愛や早すぎる出世のため、他の重臣たちの子弟に嫉妬されることも少なくなかった。


 だが大きな孤立や嫌がらせに見舞われることもなく、勤めを無事にこなしてこられたのは、冷泉どののおかげと言っても過言はない。


 そんな冷泉どのではあるものの、私との友好関係よりも、御屋形様に対する忠誠心のほうが優先順位は上回っていたようで。


 私が御屋形様に謀反を企てているという噂が実際に広まり始めると、心が揺れ動いているようだ。


 御屋形様をお守りするためには、私を斬ってもやむを得ないと……?
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