厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「よせ」


 御屋形様は冷泉どのを押しとどめた。


 「所詮は隆房のすること。事を荒立てるでない」


 「ですが御屋形様。書状を送り付けたのが事実であれば、」


 「……隆房が本心から私を殺めようとするならば、あれほど大々的に書状を毛利に送るはずもないだろう」


 御屋形様は少しの疑いも持っておられなかった。


 この私が本当に御屋形様を殺めるはずなどないと信じておられた。


 「ですが、陶どのの意図がどうであろうと、あのような恐れ多い内容の書状を他家に送りつけるなど、度を越えております」


 「冷泉」


 御屋形様は歩みを止め、冷泉どののほうを振り返った。


 「……今朝早く、相良武任(さがら たけとう)は大内館を出た」


 「えっ」


 私の御屋形様への憤りは、相良への怒りと表裏一体。


 私と御屋形様が面会して和解した場合、今まで裏であることないこと言いふらしていたことが発覚し、立場が悪くなるであろうことを予測。


 先手を打って、夜逃げ同然に逃げ出したようだ。
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