厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「大内家あっての陶家であるのと同様、陶家あっての大内家なのだ」


 御屋形様はこれまでの大内家と陶家の関係を、改めて公言する。


 「家同士のつながりのみではない。お前も存じているであろう? 私と隆房との深い絆を」


 「……」


 「衆道関係とは、ただ快楽をむさぼるためのみならず。主従関係を確固たるものとする役割もある」


 さすがに冷泉どのは目を逸らしながら、御屋形様の話に耳を傾けていた。


 「口約束や紙切れ一枚の取り決めなど、このご時世いともたやすく反故にできる。だが幾重にも積み重ねられた我々の関係は、そうたやすくは砕け散るものではない」


 「ですが、」


 「……隆房は私の理想を具現化した存在だ。眉目秀麗、武芸にも学問にも優れ、非の打ち所がない。何もかも……私の好み通りに育て上げた男だ」


 「ならばなぜ、陶どのを避けるような真似をなされたのですか」


 「怖いのだ」


 御屋形様は即答された。



 「怖い?」


 「隆房の思いが真っすぐすぎて怖い。もしも隆房の期待を裏切るようなことがあれば、どれほど失望させるか考えただけで怖い」

< 203 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop