厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……あの手この手で引退・隠居を主張しつつ、私は期待していることがあった。


 お止めしてほしかった。


 「私にはお前が必要だ。引退なんて許さぬ」


 それだけでよかった。


 御屋形様が私の引退を引き止め、そばにいてほしいと言ってくださりさえすれば。


 全てのわだかまりは解けたような気がする。


 それか、いっそのこと……謀反人としてこの場で斬り捨てられても構わなかった。


 御屋形様の信頼を裏切った不届き者として殺されるのも、悪くないと思った。


 そばで必要とされるか、裏切者として斬られるか。


 私の愛の形は二者択一だった。


 ところが。


 「お前が望むなら、仕方ない」


 御屋形様は私の引退を認められたのだ。


 御屋形様は私を止めてはくださらなかった。


 見放された。


 その事実が私に重くのしかかった。


 愛されてそばに置かれるか、憎まれて斬られるか。


 愛憎紙一重とも言うが、私はそのいずれかを求めていた。


 なのに御屋形様からの答えは、「無関心」だった。


 無視されるのは憎まれるよりも、はるかに残酷な仕打ち。


 もう必要とはされていないのだという現実を、改めて受け入れざるを得ない。
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