厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「陶どの」


 冷泉どのが追いかけてきた。


 心なしか……いつもより険しい表情。


 「どうあっても、決意に変わりはないですか」


 真剣なまなざしで私を見据える。


 「……御屋形様はもはや、私を必要としていらっしゃらない。ここに私の居場所はありません」


 「それは誤解です。御屋形様は陶どのを気遣っておられるのです。これまで心身共に負担を強いてきたから、しばらくの間実家でゆっくりなさったほうがいいと」


 それは表向きだ。


 御屋形様はついに私を解き放たれた。


 直接会ってじっくり話し合い、和解して関係修復……という道を御屋形様はお選びにならなかった。


 感情をぶつけ合うことを避けられ、真実と向き合うことから背を向けてしまわれた。


 私はこの命を賭けて……御屋形様の愛に訴えかけたかったのに。


 御屋形様は私から目を背けられ、そのまま去ってしまわれた……。
< 208 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop