厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋形様はかつて晴持(はるもち)さまを亡くされてから、全てに対して臆病になられた。また大切なものを失くしたくないと願うあまり」


 あれからもう、十年近くになる。


 私がごり押しして強行した、尼子領内への大遠征。


 散々な結果に終わったのみならず、次期当主として大切に育てられた晴持さままで失ってしまう悲劇が。


 それ以来御屋形様は、何事に対しても投げやりになったのみならず、私を避けるようになられた。


 私を見ると晴持さまを思い出されるのと、私が尼子遠征をしなければ晴持さまはお亡くなりにならなかっただろう……という思いが御屋形様を苦しめていたのだろう。


 私とて未だに……、長い間海の底に沈んでいたため腐乱した晴持さまのご遺体が悪夢に登場し、うなされる。


 罪の意識に苛まれているのは、私だって同じなのに。


 御屋形様は私を疎み、遠ざけることでしか悲しみを癒そうとはなさらない。


 そんなことをしたところで、晴持さまが生き返るわけでもなく、私の胸の奥に秘めた屈辱の思いが膨れ上がるのみ。
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