厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「隆房、隆房」


 「はい、御屋形様」


 御屋形様は四六時中私を呼びつける。


 常に側にいて差し上げないと、不安そうな表情を浮かべる。


 「やれやれ、眩しいほどのご寵愛ですな。『源氏物語』の桐壺更衣と桐壺帝。古代中国の楊貴妃と玄宗皇帝と申したほうがよろしいか」


 御屋形様の側近たちは、苦笑いを浮かべながら私たちを眺める。


 「この隆房は文武両道のみならず、容姿端麗。これからの大内家にとっては希望の星だ」


 御屋形様は他の重臣たちの前で、平然と私を賞賛する。


 御屋形様に誉められることはありがたいが、時に困惑してしまうこともある。


 私は陶家の嫡男。


 家柄からしても、私の能力からしても……今の地位はしかるべきものであるはずなのだが。


 あまりに御屋形様が人前で私を褒め称えれば、まるで私は御屋形様のまぶしいほどの寵愛のみによって現在の地位を得たのだと。


 他の側近たちから、誤解を受けそうだったから。
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