厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋形様がいつまでもあの調子でしたら、陶どのもそばに仕えるのも苦しいことでしょうね。私も無理強いはできませんが……」


 冷泉どのはため息をついた。


 私の決意が固いのを察し、説得をあきらめたようだ。


 「私は陶どのを信じておりますが」


 そして念を押す。


 私がよもや大それたことを考えてはいないかどうか、最後に試しているのかもしれない。


「これだけは覚えておいてください。今の私があるのは、御屋形様のおかげです。何があろうと私は、御屋形様のおそばをはなれるわけにはいきません」


 冷泉どのは、御屋形様への御恩に最後まで報いるとはっきりと口にされた。


 つまりそれは、私との決別を意味する。


 「お元気で」


 「早くお戻りになられよ。大内館にておまちしております」


 後ろを振り返ることなく、私は大内館を後にした。


 次に冷泉どのにお会いするのは、おそらく……。
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