厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
***


 私は本拠地である富田若山城へと引きこもった。


 そして誰に止められるでもなく、山口の重臣たちや毛利家などと書状を交わす。


 御屋形様には隠居していただき、その跡を義尊さまに継いでもらうと。


 この乱世、その任務を全うできなくなった主君を廃することも、重臣としての大事な務めであった。


 断腸の思いでそれを実行するのもまた、家の存続を守るためには必要不可欠なことだったのだ。


 私は別に逃げ隠れもせず、各所に文を送り届け続けた。


 当然山口の御屋形様の周囲の者たちの耳にも届いていたはずだ。


 だが誰も、私を排斥する行動は起こさなかった。


 おそらく肝心の御屋形様が、何もなさらなかったのだろう。


 私が御屋形様に刃を向けたりしないと。


 そして私に同調する者など誰もいないと、信じて疑わなかったのだろう。


 だが。


 一度動き出したものは、もう止めることができない。


 時は何事も振り返らず、終幕へと向かって突き進んでいた。
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