厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ただし元就の長男・隆元(たかもと)は、幼少期を山口で過ごした際に、御屋形様に非常に大切に扱われた。


 その恩を忘れていない隆元は私に、決して御屋形様のお命を奪ったりしないよう強く要求してきた。


 「周防国守護の地位を退き、隠居という形にとどめるように」と。


 もしも命を奪うようなことがあれば、私を決して許しはしないと……。


 御屋形様はかつて私にしたのと同様に、隆元を手籠めにしたのかもしれないと疑っている。


 そして隆元も未だに御屋形様を忘れられないどころか、慕い続けているのだろうと。


 私もさすがに主君殺しの汚名を背負ってしまっては、今後の行動にも悪影響が出てしまうので、そこまではしようとは考えていなかった。


 いずれにしても足場は全て整った。


 後は時を待つのみ。


 ……八月に入った辺りから、さすがに周防国全体に不穏な雰囲気が漂い始めた。


 御屋形様はあいも変わらず酒宴三昧の日々を続けておられ、表面的には以前と変わらぬ平穏な毎日ではあったが。


 確かに空気は張りつめていた。


 危険を察したのか、八月十日に相良は逃亡。


 三度目の脱走だった。
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