厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ついに私が率いる一万を超える軍勢が山口に迫った。


 「御屋形様。これ以上放置しては手遅れになります。ご決断を!」


 御屋形様に忠誠を誓う冷泉隆豊(れいぜい たかとよ)どのは大内館に残り、御屋形様に進言した。


 この期に及んでやっと御屋形様は、軍勢に召集をかけたのだが、


 「杉も? ……それどころか内藤も?」


 御屋形様は重臣たちがもはやほとんど大内館には残っていないことを、ようやく悟られた。


 陶家に匹敵する他の名門重臣たちも、すでに私の元へ馳せ参じていた。


 御屋形様の周りに残った重臣は冷泉どのだけで、集った兵力もわずか数千。


 いつしかこの周防国のほとんどの者どもが、御屋形様を見限っていたのが証明されたのだった。


 悲しみにとらわれ、いつまでもご自身の殻の中に閉じこもっている間に、御屋形様は何もかも失ってしまわれていたのだ。


 お気づきにならないうちに。
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