厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ここ山口の町は、かつて御屋形様が京の都を模して新たに作り直された。


 見栄え重視で、防御には適さない。


 特に中心地の大内館は華美であるのみで、周囲を軍勢に囲まれては無防備。


 そこで御屋形様は館を捨て、郊外の宝泉寺(ほうせんじ)に移動され、そこに陣を敷いて守りを固められた。


 無人となった大内館に私は入った。


 ほんの少しまで続けられていたはずの宴の名残がまだ消えないでいる。


 火を放った。


 兵たちには略奪を許可した。


 この世に何も残したくはなかったからだ。


 甘い記憶も、苦い思い出も、全て灰になってしまえばいい。


 惨めに形を残し、苦しみたくなどはないから。
< 222 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop