厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「……和田が拒否した?」


 和睦を求めて遣わされた使者が、虚しく手ぶらで戻ったのを確認なさると。


 御屋形様を囲む取り巻き一同は、一様に沈痛な表情を濃くした。


 「武士らしく、とは?」


 「それはつまり、切腹せいということやろか」


 「はっきり言うたらあかん!」


 武士らしい最後。


 軟弱な公家である彼らも、それが切腹を意味することは承知している。


 だが事態がそこまで切羽詰っているとは、まだ認識していない。


 この名門大内家がそう簡単に消えうせるとは、誰もが半信半疑。


 すると。


「うわああああああ~っ!」


 突然、兵士の一人が逃げ出した。


 「嫌だあっ」


 「死にたくねえ」


 雪崩を打ったように、兵士が続々と背を向けて走り出したのだ。


 御屋形様を見捨てて。
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