厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「この兵力では、宝泉寺でさえも守りきれませぬ」


 兵たちの逃亡が相次ぎ、今のままでは到底陶の軍勢を迎え撃てぬと判断し。


 冷泉どのの進言を受け入れ、御屋形様は山口を後にするご決断をなされた。


 「海路逃げ延びて、その後再起を図ろう」


 海へ出るには、南側の街道は全て封鎖されているため。


 北に進み日本海へと出なければならない。


 日本海側の港は、長門(ながと)の仙崎(せんざき)。


 山口を出て一晩中歩かなければならないほど離れている(約50キロ)。


 「……とりあえずはここを退いて、立て直しを図ることとする」


 御屋形様はようやく決断された。


 宝泉寺を退いて亡命なさると。


 「どこへ……向かわれますか」


 公家たちは御屋形様を見上げ、答えを待つ。


 「私の姉たちの嫁ぎ先のいずれかに身を寄せ、その地にて反撃の狼煙を上げる日を待とう」
< 225 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop