厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 御屋形様には姉が五人ほどおられる。


 それぞれ近隣の名門大名家に嫁いでいる。


 一人が四国の一条家。


 さらに九州の大友家。


 そして石見(いわみ)の吉見家、などなど。


 「四国は遠いし、大友は晴英の件もありすでに隆房と盟約を通じているのは明白。かくなる上は、石見の吉見正頼(よしみ まさより)を頼るのが得策と考える」


 御屋形様は石見への亡命を画策なされた。


 しかし陸路はすでに封鎖されている。


 「何とか徒歩で長門(ながと)の仙崎(せんざき)港にたどり着き、そこから海路石見を目指すのが無難でしょう。仙崎にて私の手の者が、何としてでも船舶を調達いたしますので」


 大内家の水軍部門を担当していた冷泉どのは、御屋形様に海路石見行きを勧められた。


 だが日本海に面する長門の仙崎までは、歩いて一晩以上かかる距離。


 街道はすでに封鎖されているため、人目につきにくい山道を選択する必要がある。


 馬も十分に調達できない中、徒歩の御屋形様や公家たち一行を率いて仙崎港までの逃避行を強いられることとなる。
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