厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「……御屋形様、お会いしとうございました」


 私は思わず、自ら御屋形様に身を寄せていた。


 「戦場の陣中や帰還後の政務の間に戦場いつも会っていたではないか」


 そういう意味ではないのに、と内心少しふてくされる。


 「……分かっておる。私とこうして二人きりで会うという意味であろう?」


 私の心を見透かすかのように、御屋形様はそっと微笑み私を抱き寄せる。


 「心配いたすな。会えずにいた寂しさなど忘れさせてやるから」


 ここは大内家の館(現在の山口市)から南下した、松ヶ崎(山口県防府市)という風光明媚な浜辺の町。


 松ヶ崎にある御屋形様ゆかりの寺にて密会していた。


 何かと人目に付く館を抜け出し、隠れ家のような寺にて一夜限りの逢瀬……。


 北九州遠征などが続き、なかなか御屋形様と二人きりで過ごす夜を迎えることができなかった。


 そんなこともあって私はこの夜、寂しかった日々を全て埋め合わせるかのごとく、御屋形様を求め続けた。
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