厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
私が御屋形様に初めてお会いしたのは、先代の御屋形様の葬儀の場においてだった。
私も父に葬儀の場に連れて行かれたのだが、まだ幼すぎて周囲の状況を認識できていなかった。
(先代様が亡くなられた)
先代様に何度かお会いした時のことを覚えていたが。
まさにこの国の支配者という雰囲気をまとわれた、偉大なる御方だった。
そんな御方が亡くなられたという重大な事態を理解していなかったまだ幼い私は。
長く続く葬送の儀式に対し、いささか退屈を覚えていた。
家の者と控えの間のような場所に滞在していた時、ふと庭園へと足を踏み入れてみた。
お屋敷に庭園は広すぎて、そこはまるで迷路のよう。
恐ろしいくらいだった。
すると足元に猫がいた。
三毛の、まだ子猫だろうか。
触れようとした私の手をすり抜けて、子猫は逃げ出してしまう。
追いかけても追いつけぬ身軽さで、子猫は庭園を駆け抜けて、ついには木の上へと逃れていった。
子供の私の手に届く枝はなく、子猫のいる所までは登っていけない。
「いかがした」
悔しくて泣きべそをかいていた私に、背後から誰かが問いかけた。
優しい声だった。
私も父に葬儀の場に連れて行かれたのだが、まだ幼すぎて周囲の状況を認識できていなかった。
(先代様が亡くなられた)
先代様に何度かお会いした時のことを覚えていたが。
まさにこの国の支配者という雰囲気をまとわれた、偉大なる御方だった。
そんな御方が亡くなられたという重大な事態を理解していなかったまだ幼い私は。
長く続く葬送の儀式に対し、いささか退屈を覚えていた。
家の者と控えの間のような場所に滞在していた時、ふと庭園へと足を踏み入れてみた。
お屋敷に庭園は広すぎて、そこはまるで迷路のよう。
恐ろしいくらいだった。
すると足元に猫がいた。
三毛の、まだ子猫だろうか。
触れようとした私の手をすり抜けて、子猫は逃げ出してしまう。
追いかけても追いつけぬ身軽さで、子猫は庭園を駆け抜けて、ついには木の上へと逃れていった。
子供の私の手に届く枝はなく、子猫のいる所までは登っていけない。
「いかがした」
悔しくて泣きべそをかいていた私に、背後から誰かが問いかけた。
優しい声だった。