厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 翌朝。


 目覚めるとすでに、御屋形様はいなかった。


 もぬけの殻。


 私を一人、寺の寝所に残したまま。


 すでに館に戻られたようだ。


 「……?」


 ふと気付くと枕元に一枚の紙が置かれ、そこには和歌がしたためられていた。


 「もぬけなりとせめて残らばうつせみの

世のならひとも思ひなすべし」


 自分は忙しい身の上ゆえ、なかなか会えないのは仕方がない、せめて身代わりにこの和歌でも残していこうということか。


 気まぐれに私を抱き、そして去っていく御屋形様。


 そんな御屋形様に振り回され切なさを感じつつも、別れの瞬間の寂しさよりも。


 次に会えるであろう時の喜びを、ひたすら待ち焦がれていたのだった。
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