厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 だが本音は、父の死による喪失感よりも。


 解放感のほうが大きかったのも事実だった。


 御屋形様と私との関係を咎める存在だった父がいなくなった。


 「御屋形様のご意向に逆らってはならぬ」と、私が幼き頃より繰り返し言い続けた父。


 陶家は大内家を支える立場であり、大内家にとって陶家はかけがえのない存在。


 そんな陶家の嫡男として私に、御屋形様のために全てを捧げるように教え込んだにもかかわらず。


 御屋形様の私へのご寵愛の度が過ぎると、父は御屋形様を諌めたりもした。


 少し冷却期間を設けようと、私を御屋形様から引き離そうと画策したことも。


 だが御屋形様は私を決して手放そうとはせず、やがて父は病に倒れた。


 私は大事な支えを失ったのと同時に、御屋形様への愛を邪魔立てする最大の障害もまた消えたともいえる。


 (これからは私は、思うがままに……)


 喪服に身を包み、手には数珠を握り締め。


 喪主として……僧侶の読経と線香の香りに包まれながら。


 私の頭の中はは父への愛惜よりも、御屋形様への想いでいっぱいだった。


 ……まさに煩悩。
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