厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
***


 父の葬儀も一段落した、その年の秋。


 喪主としての勤めをつつがなく終えることのできた私は、安堵したあまり。


 夏の暑さから秋の涼しさに移ろいゆく季節の変わり目に、体調を崩し寝込んでしまった。


 最初は風邪だと甘くみていたら、体のだるさが長引いて。


 公務に差し支えが出てしまう始末で、山口の邸で長い間寝込んでいた。


 それでもなかなか体調が回復しないため、本拠地である若山富田城(わかやまとんだじょう;山口県周南市)に引きこもり、休養することにした。


 「お前と離れるのは寂しいが、今は地元でゆっくり養生いたせ」


 御屋形様は名残惜しそうに、私を帰省させる許しを下した。


 家臣ではありつつも、陶家の当主は大内家にとって大切な存在であるため。


 陶家の当主が大内館から退出する際は、御屋形様が門まで出て見送るのがしきたりだった。


 そのしきたり通り、御屋形様は実家に帰る私をいつまでも見送っていた。


 互いの姿が完全に見えなくなるまで、いつまでも……。
< 34 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop