厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「……間もなく毛利救援の軍を出陣させるが、大内軍総大将には隆房、お前を命じる」


 「え、私がですか」


 御屋形様の腕の中でまどろんでいた私は驚き、一気に目が覚めた。


 私が……総大将?


 「実戦経験に乏しいこの私が、いきなり総大将ですか」


 「一万の軍勢を与えるゆえ、問題はないだろう」


 「ですが尼子方の軍勢は、三万にも及ぶとも聞きます」


 「案ずるな」


 御屋形様は優しく、私の頬を撫でる。


 「私も岩国(山口県岩国市)付近に陣を構えて後方支援を行なう。いずれ私が大内軍本隊を率いて、出陣するという噂を流しておこう。そうすれば尼子方も、全軍をお前に集中させることはできまい」


 すでに初陣を済ませ、戦の経験は積んでいるとはいえ。


 歴戦のつわものたちである大内家重鎮たちを差し置いて、この私が大内軍の総大将に?


 この大抜擢の理由は?


 「もしかして、これは厄介払いですか?」


 「厄介払いだと?」


 「私の体にはもう飽きて、若い男に心変わりなさったから。邪魔な私を危険な最前線へと派遣なさるおつもりですか」
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