厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「ご挨拶が遅くなりました。私が毛利家当主・元就でございます。この度は陶どのの援軍のおかげで、命拾いいたしました」


 元就と直接会ったのは、先ほどが初めて。


 尼子軍の逃亡に気付き、慌てて後を追おうとしていた混乱の中だったため、きちんと挨拶を交わす暇がなかった。


 「大内軍総大将、陶隆房にございます。以後お見知りおきを」


 元就は年の頃40半ば過ぎの、思慮深そうな壮年だった。


 「尼子本隊のみならず、新宮党まで出陣してきて大軍に城を囲まれ、一時は城を枕に討ち死にを覚悟いたしました。大内の御屋形様が陶どのを派遣してくださらなければ、今頃私は……。まことに陶どののおかげです」


 「いえ、私はそこまでは。元就どのが今まで必死で篭城したがゆえに尼子も疲弊し、そこに私が付け込むことができたまでです」


 配下の者に威張っても印象が悪くなるだけなので、ひたすら謙遜し続けた。
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