厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「吉田郡山城は、大変寒くて凍えそうでした。御屋方様に暖めてもらわなければ、凍えて息絶えてしまいそうです」


 「いくらでも暖めてやろう……五郎」


 御屋形様に「五郎」と呼ばれると、私の身は奥深くから疼く。


 元服し新たに「隆房」の名を与えられた今でも、二人きりの時に御屋形様は私の幼い頃の名を耳元で囁かれる。


 すると私は身分も地位も役職も全て投げ捨てて、御屋形様にいつまでも溺れていたくなる。


 「御屋形様。私が荒涼とした戦場にて、どれだけ御屋方様に飢えていたか、確かめてくださいませ」


 御屋形様は、私の全て。


 御屋形様に愛されるなら、私はどんな犠牲を払っても構わない……。
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