厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 御屋形様の腕の中で、軒先から月を見上げていた。


 夜半過ぎ、月は西へと傾きつつあった。


 「今宵は十六夜(いざよい)の月」


 御屋形様はふと口にする。


 「満月を過ぎたばかりの、十六夜の月もまた風情があるものだ」


 「私は風情を感じられません」


 「なぜだ、五郎」


 ……満ちてきた月は、満月を過ぎると欠け始める。


 いずれは新月へと向かって欠けてゆく十六夜、下限の月などを、私は愛でることができなかった。


 それは人の一生にも似ているから。


 満ちた後は、必ず欠け始める。


 それが全ての理(ことわり)ならば、御屋形様の私への寵愛もいつか移ろい、冷めゆくこととなる。


 今のような日々が失われるようなことがあるとは……考えただけで怖い。
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