厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋方様」


 「ん……」


 夜明け前。


 まどろんでいる御屋形様をお呼びすると、夢でないことを確かめるかのごとく再度私を強く抱く。


 松ヶ崎の寺などで、人目を忍んで落ち合ういつもの夜などは、私が目覚めるより先に御屋形様はお帰りになってしまう。


 朝、一人で目覚める度に、むなしさを噛みしめたものだ。


 だが今だけは、御屋形様と共に朝を迎えられる。


 穏かな眠りに包まれながら、この上ない喜びに満ち足りたままで夜は明けていく。


 それでもやはり、朝の訪れは私に寂しさを与える。


 朝になれば私と御屋形様は再び、いつもの主従関係に戻らなければならない。


 次にこのような甘い朝を迎えられるのは、いったいいつになることだろう。


 愛のままには生きられない……。
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