厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋方様……」


 御屋形様の胸に抱かれながら、私はそっと呼びかけた。


 「いかがした」


 日の出間近、すでに目を覚ました御屋形様は、応えるように私の髪を撫でる。


 「この機に乗じて、尼子の息の根を止めてしまいたいと存じます。私を再度、大内軍総大将にご指名くださいませ」


 子供の頃のように、御屋形様におねだりした。


 「ようやく山口に帰還したばかりというに、五郎はまたしても荒涼とした戦場に出向こうと申すか」


 私のおねだりならば、大部分を叶えてくださる御屋形様ではあるけれど、


 「そう急くでない。今はゆるりと体を休めよ」


 さすがにやんわりと反対なさる。
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