厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「ですが! この度の我らの大成功により、尼子は大混乱に陥るでしょう。総大将・久幸は我らが討ち取り、当主・晴久は九死に一生を得てようやく帰還できたとのこと。この機会を逃しては、いつまた好機が訪れるか」


 「焦りは禁物だ。とりあえず今は兵を休ませることが先決だ」


 なおも出陣を望む私を、御屋形様は唇を塞ぐことで黙らせた。


 「お前と離れて過ごした秋は寂しかった。せっかく私の元へ戻って来られたというのに、なぜまたすぐに旅立とうとするのだ」


 全ては御屋形様のため。


 そう答えることすらできず、私は御屋形様の腕の中、再び甘い夢に溺れ始めた。


 戦場での乾いた寒さを全て忘れてしまえるくらい、無限に注がれる愛で潤してほしいと願った。
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