厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「御屋形様、ついにこの上ない好機が訪れました」


 評議の場にて、私は御屋形様に奏上した。


 「尼子家は経久の死で大いに揺れております。孫の晴久では心もとないと、尼子家を見限って大内家の傘下に入ることを希望する者たちが続出」


 そして私はおもむろに書面を取り出す。


 「こちらをご覧ください。その者たちが御屋形様宛に、尼子征伐の嘆願書を提出してきました」


 尼子の本領・出雲(いずも)周辺の豪族は、今まで尼子の横暴に耐えていた。


 経久が死去したゴタゴタに乗じて、尼子の支配から脱したいと願うのは当然の成り行き。


 一斉に大内に寝返った彼らは、この機に一気に尼子を攻め滅ぼしてしまおうと提案。


 風向きが完全に大内に追い風となったのを悟った私は、御屋形様に出雲遠征を主張した。


 敵国への遠征ともなれば、挙国一致とならねばならない大事業ゆえ、さすがに枕の上での口約束だけでは実行できない。


 御屋形様臨席で重臣たちを集めた評議の場で、出席者の承認を得た上で最終決定。


 ……という過程を踏まなければならなかった。
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