厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「そう怒ってばかりいるではない、五郎。美しい顔が台無しになるぞ」


 微笑んで顔を覗き込まれると、私は弱い。


 「……」


 途絶えることのなく湧き出て来た不満の言葉も、急速にどこかへと消えていく……。


 「お前は怒った顔も可愛いが……」


 御屋形様はまるで子供をあやすように、頭を撫で続ける。


 「どうせ私は素直ではありません。御屋形様が寵愛なさる他の男に、嫉妬ばかりしています」


 自分を卑下してそんなことを口走る自分が悔しくて、ついぷいっと横を向いてしまう。


 「何を申す五郎。私はいつもお前だけを」


 「……次期大内家当主となられる晴持さまにも、並々ならぬご執心ぶりであられるとか」


 気まぐれに様々な男を慈しまれる御屋形様、そして相手の男への嫉妬。


 そんな嫉妬に揺り動かされる自分に苛立って、御屋形様に背を向けてしまう。
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