厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「晴持は次期当主とすべく、養子に迎えたのだ。我が子に手を出すほど、私は鬼畜ではない」


 私のつまらない嫉妬をも、御屋形様は動じることなく包み込んでくださる。


 「にもかかわらず、何を拗ねておるのだ五郎は。いつものように可愛い顔をして、私を惑わせておくれ」


 ……御屋形様は元服とほぼ同時に、先代様の勧めもあって。


 帝の血を引く公家(貴族)の高貴な姫君を正室にお迎えになられた。


 しかしなかなか御子がお生まれにならず……。


 大内家正統の血筋が絶えることを危惧した重臣、すなわち私の父などの提案で。


 御屋形様の姉上が嫁いでおられる土佐(高知県)の一条(いちじょう)家から、男子を養子として迎えることとなった。


 御屋形様の姉上からお生まれになられた晴持さまは、土佐一条家の当主の四男だったため、家督相続の可能性は低く。


 母の実家である大内家の養子となり、次期当主の座が約束されたことは渡りに船であった。
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