厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「力を貸してはくれまいか」


 「御屋形様の……お望みとあれば」


 私が決して断ることなどないと知っていて、御屋形様は私に懇願する。


 「未来永劫大内家が繁栄するためには、お前はなくてはならない存在だ。これからも大内家のために尽くしてくれ」


 「御屋形様の命令でしたら、この身を幾度犠牲にしても構いません」


 大内家のためではない。


 御屋形様のためになら命を失っても構わないと、本気で思っていた。


 私のこの身の全ては、御屋形様のためのものであると……。


 出雲へ向けての出陣まであとわずかと迫った夜、冬の月の刺すような冷たい光が、窓から差し込んできた。
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