厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「……今回の裏切りは、この上ない痛手だ。他の武将たちにも動揺が広がっている」


 手痛い裏切りを食らって程なき夜。


 月山富田城がよく見渡せる小高い丘で、私は御屋形様と今後のことについて語っていた。


 尼子から大内に鞍替えした者たちが、続々と今度は大内から尼子へと戻り始めている。


 一度裏切った経験がある者どもが、再び裏切り行為を働くのは想定の範囲内とはいえ。


 豪族たちの離反続出に、御屋形様の心は折れかかっていた。


 「このまま陣を敷き続けては、さらに我らの旗色は悪くなっていく。機を逸する前に撤退準備に入るのが、今は得策かと思う」


 「御屋形様……!」


 予想していたとはいえ。


 御屋形様の口から「撤退」の言葉が出ると、私は戸惑いを隠せない。


 「志半ばでおやめになるのですか。せっかく一年以上も頑張ってきましたのに、ここで撤退しては何もかもが無駄になります」
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