厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 一度始めたことを中途半端でやめてしまうことに対し、大きな抵抗感があった。


 ここまで頑張ってきた過程の全てが無に帰してしまうことにもなりかねないし。


 会議の席にて、反対意見を押し切って遠征を主張した私の面子も潰れてしまう。


 「お前が責任を追及されるような事態には追い込まない。この度の不成功は、総大将たる私が至らなかったせいだ」


 御屋形様は私を庇ってくださる。


 自己保身に走りつつあった自分を恥じた。


 「ですが、月山富田城を目の前にして……。千載一遇の好機は、そう簡単には訪れないかと」


 「これ以上、傷口を広げるべきではない。余計な犠牲を払う前に、今は撤退すべき時だ」


 「御屋形様……」


 御屋形様のご決意は固く、私ですら翻意させることは叶わなかった。


 翌日の重臣会議にて、正式に大内軍撤退は決定された。


 遠征が長引くのみならず、不利な戦況に焦りを感じていた重臣たちの表情には皆、安堵の色が広がった。


 ……私が強引に推し進めた出雲遠征は、こうして不成功に終わったのだった。
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