厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 五月上旬。


 大内軍はついに撤退を始めた。


 尼子勢に気取られぬように……。


 私は御屋形様の下で、夢を実現させたかった。


 尼子を駆逐し、御屋方様を西日本随一かつ最強の大名として君臨させること。


 それゆえに!


 穏健派な重臣たちをねじ伏せてまで、尼子攻めを強行した。


 ところが。


 尼子側の篭城に我々は手を焼き、長期戦の様相を呈するに連れ、裏切り者が続出。


 ついに御屋形様は撤退をご決断なされた。


 これは事実上の敗北。


 意気揚々とした進軍の日に比べ、今この瞬間の軍勢の足音すらも重苦しく感じられる。
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