厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 草食獣が群れで移動する際、疲労や怪我で脱落する者があれば、待ち構える狼の餌食となってしまう。


 それはまさに、今の私たちの有様。


 疲れ切り弱り果て、大内軍本隊から脱落してしまえば。


 たちまち尼子の追撃部隊に捕らえられ、首を取られてしまうだろう。


 際限なく続く敵の来襲を撃退することに疲労困憊し、気持ちが萎えかけている。


 二度と御屋方様にお会いできないのではないかという思いに駆られ、心が弱さで覆い尽くされる。


 御屋形様はこの軍勢の先頭にて、殿を務める私より少し先を進んでいる。


 退却中は安全に山口に帰還することが最優先であり、なかなかお会いすることも叶わない。


 まだまだこの辺りは、尼子の領地。


 大内領に到達するまで、道のりは長い……。


 華やかな出陣行列とは正反対の、あまりに惨めな退却に気力も萎え、唇を噛みしめる。


 私が愚かだったのか。


 戦前の状況では、尼子などあっという間に蹴散らせるはずだった。


 それがまさかの長期戦に突入した挙句、ろくな成果も上げられず、事実上の敗走となり今こんな悲惨な撤退を余儀なくされている。
< 89 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop